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【プルマガ α】中台冷却化で蔡政権支持低下と改革減速懸念(寄稿40回目)

Posted on 2016年12月15日


プルマガα40

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9月12日、台湾の台北市でホテルや飲食店など観光業者ら1万人以上によるデモが行われました。

今回のデモは、外国人観光客の減少(=単に中國大陸)による、台湾観光業の苦境を訴えると共に、政府に対して国内旅行の拡大や中国・ASEAN諸国への観光PR強化を為すべきだ、そして観光ビザの緩和などの対応策で訪台客数の増加を図れとの要求デモでした。

この、基幹産業である台湾観光受入れ側の打撃的な訪台客数の激減は、民進党の政権奪取時点から判り切っていたことでした。
ロシアは、エネルギーをロシア天然ガスに依存するウクライナにガス管の栓を締めて、クリミヤ帰属問題に有益な結果を得ました。
中國の経済制裁は、中間所得層まで豊かな海外旅行層の行先を変えることで、中國経済に一辺倒の国を締め上げる国策に特徴が在ります。その事例が今の韓国で、中國人観光客の急増で美容整形業界はもはや韓国の基幹産業に成長しましたが、今は病院で並ぶ中國人は見受けなくなりました。ひとつの国に経済を依存すると、その瞬間から囚われの身に成り国運左右して来た世界歴史の教訓を忘れているからです。

この、台湾国内の今回の観光デモの背景には、台湾の対中政策の転換(=国民党馬政権の中國依存政策からの脱却)に対して中國の狡猾なアメとムチが在ります。2008年に発足した馬英久国民党政権は親中政策に舵を切り、中國政府は台湾への利益供与策を採り、その一環として2008年7月から台湾への観光客の送り出しを始めました(=我々日本国は中國政府の真意を見抜いていますが、大衆は目の前の藁は掴み易いのです)。

その後も中國政府が徐々に台湾への渡航制限を緩和するなかで中國人観光客は急増を続け、昨年の外国人旅行者数は1044万
人に急増して、この8年間で約3倍に膨れ上がりました。
しかし、今年1月の総統選挙で民進党の蔡英文主席が勝利した事をきっかけに、予想通りに流れの方向は変わった(経済制裁です)。
蔡氏は総統就任演説で、馬前総統国民党政権が中國政府と共有した「台湾と中國は一つの中國」の原則への支持を表明しなかったからでした。

これを受けて、中國政府は5月の蔡総統就任以降外交圧力として訪台ツアー客渡航制限を開始しました。その結果、全体の約4割を占める中國大陸からの観光客数が4ヶ月連続の二桁減となり、8月の外国人旅行者数は前年同月比3,4%減に転じました。
中國のアメで台湾経済の中國依存度が高まった分だけ、ムチの影響力も増大していたのです。

民進党は台湾独立を党綱領に掲げる政党です。今後も蔡総統が92年台中コンセンサス(台中はひとつの中國)を認めるとは見込みにくく、今後は観光業以外の面でも中國政府からの圧力が掛かる展開の懸念が予想されます。

こうして中台関係の冷え込みが台湾経済への悪影響を及ぼし始めるなか、煽りを受けて蔡権支持率が低下しています。台湾指標民調の世論調査9月下旬によると、蔡総統の政権運営に満足と答えた人は38,4%と、総統就任時の50,2%から大きく低下しました。
一方、不満と答えた人は48,3%で過半数に達しつつある水準です。不支持が広まった背景には、中台関係悪化と経済低迷に加え期待通りに構造行政改革が進まないことや、政権発足時の人事を巡る混乱などが根底にあるとみられています。

足元の輸出は、台湾企業が生産を受託しているiPhone7向けが好調で底打ちの動きが見られています。しかし、世界経済は依然として力強さを欠くなか、輸出の本格回復までは見込みにくくて、先行きの台湾経済は良くて緩慢な成長が続きそうな見通しです。

また台湾製品の競争力が低下しつつあることも、今後の成長期待が高まらない要因になっています。台湾と同じ1970~1980年代に経済が急成長して、アジアの四大龍と呼ばれた韓国の海外市場シェアを見ると、この約10年間で主要4市場における台湾のシェアが落ちている一方で、韓国のシェアは上昇もしくは小幅の低下に止まっていることが分かります。これは、台湾が経済連携協定で韓国から遅れをとっていることが主因と見られます。韓国はASEAN諸国、インド、EU、米国、中國とのFTAを発効して、FTA先進国と評される一方で、台湾のFTA締結数は中國とシンガポールなど6カ国に止まっています。

中國との関係悪化を懸念する国が台湾とのFTAに積極的ではないことも影響している様です。さらに中國企業の成長は著しく、台湾の得意とする電気・電子産業においても、中國市場では中國企業による国内企業同士の赤いサプライチェーンが浸透しているようです。
これまで台湾経済を牽引してきた中國向けの電気・電子機器の輸出にも陰りが見えて来ています。

また国内を見ても、台湾は急速な高齢化への対応や年金改革の遅れといった問題も抱えており、経済を安定した成長軌道に戻すことは簡単では在りません。
蔡政権は、これまでの効率駆動型経済モデルから創新、就業、分配を核とするイノベーション駆動型の経済モデル(貧富の格差拡大を縮小させて社会問題が和らぐより住み易い台湾社会)へ移行する中で、単一市場の中國への依存を減らそうとしています。

それは、上述の通りに、経済をひとつの国に依存したらその瞬間から囚われの身になる歴史の教訓で在るから、蔡総統の方向性は間違っていません。
民進党が政権を握れば中台関係が冷え込む展開は当初から予想されたことであり、また前政権が手をつけていない問題に取り組むにも時間は掛かる事も始めから判り切っていたはずです。
にもかかわらず、政権発足から半年でこれほど支持率が低下したのは驚きです。台湾世論には蔡総統の意を汲み取り政権支持的な態度が広まって、改革の推進力が高まる民意創りを期待します。

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